共和政ローマ後期

紀元前２世紀、ポエニ戦争でカルタゴを征服し、また地中海とオリエントを征服したローマは強力になり飛躍的な発展を遂げていきました。しかしこの時代のローマは長く続いた戦争で"内乱の１世紀"と呼ばれ、共和政の崩壊につながっていきます。

地中海を制覇したことで、ローマには属州となった国から莫大な富が流れ込んできました。しかしその富を手にしたのは貴族など一部の階級の人達でした。もともと農耕民族であったローマ人は基本的に貴族も市民（農民）も農業に携わっていました。

中小農民は戦争になると自分たちで武器を調達して戦争にでかけ、帰国すると畑を耕すという生活をしていたのです。しかし、領土が拡大するにつれ戦地が遠くなり、戦いが長引くと手入れをしない畑は荒れ放題となり、戦地から戻っても農耕が出来ない状態になっていました。

その上、地中海一帯の属州からは安価な小麦や穀物が大量に輸入されるようになり、イタリア国内は農業が成り立たなくなっていきます。多くの農民達は家族を養うために土地を手放し、没落して無産階級となっていきました。

それまでのローマ市民が兵役につくのは税金の代わりで義務だったのです。ですから土地を手放し無産階級となった市民は当然、税金を納める代わりの兵役の義務もなくなりました。ということはローマに兵士が少なくなりローマ軍全体が弱体化していく事につながっていくのでした。

グラックス兄弟の農地改革

（市民）農民達が手放した土地を買い占めたのが元老院の貴族達でした。貴族達は属州から連れてきた戦争捕虜の奴隷を大量に使い大規模の農場経営をするようになり、市民との貧富の差は益々広がっていきました。

元老院の権力集中が進み、一般市民は疲弊し社会不安が広がっていきます。これを打開しようと立ち上がったのが名門貴族で護民官に選ばれたグラックス兄弟でした。兄のティベリウスが行った政策はこれ以上没落する農家を増やさない為の農地改革でした。

ＢＣ１３３年、土地所有の上限を決め貧しい市民に分配するという農地法を提案しました。しかし大土地所有者の殆どが元老院議員だったため激しい反対をうけます。ティベリウスは手腕を振るい、法を通しましたが、彼は元老院によって暗殺されてしまいます。法は無視されたのでした。兄の計画を受け継いだ弟ガイウスも又元老院によって自殺に追い込まれてしまいます。

平民将軍マリウスの軍制改革とスッラの恐怖政治

無産階級になった人々は職を求めてローマに集まり、街にあふれていました。ＢＣ１０７年、グラックス兄弟の死後、平民出身の将軍で執政官にまでなったマリウスは軍制改革を行ないました。財産のない貧民を兵士として採用したのです。つまり兵士に給料を払い武器を与え、職業としての兵士をつくったのです。この方法は弱体化した軍隊の立て直しにも成功したように見えましたが・・

兵士は当然、国家よりも雇われる司令官に忠誠を誓うようになります。マリウスの軍改革は次第に兵士を多く持つ司令官の軍事力がものをいう時代になります。

マリウスの部下である元老院貴族のスッラと民衆派マリウスとの権力争いでローマに内乱が起きました。スッラは私物化した軍隊によってすべての権限を持つ独裁官に就任しました。２人の対立は３年の間、内部抗争、処刑、大虐殺と国内の反乱はエスカレートしていきます。スッラはローマを軍事独裁政治に変え、恐怖政治と恐れられました。元老院貴族の権力はますます強くなっていきます。

第一回三頭政治

ＢＣ６０年このような不安定な状況の回復にポンペイウスとクラッスス、そしてユリウス・カエサルの第一回三頭政治が成立します。秘密協定でしたが、人気のある民衆派のカエサル、門閥派であるが元老院に不満を持つポンペイウス、騎士であり大富豪のクラッススが手を結ぶことによって元老院に対抗できるようにしたのです。

カエサル暗殺

しかしクラッススが戦死すると、ポンペイウスは元老院に接近していきます。執政官となったポンペイウスは元老院を掌握して今度は民衆派のカエサルと敵対します。ポンペイウスはガリアを完全征服して属州としたカエサルの名声と実力を恐れました。カエサルに軍を解散して（注）単身ローマへ戻るよう元老院最終勧告を出しました。単身ローマへ戻れば殺されると分かっているカエサルは軍と共に国境のルビコン川を渡ったのでした（賽は投げられた）。

（注）共和政ローマでは北のルビコン川と南のブリンディシが国境でした。国境からローマへは将軍といえども元老院の許可なしに、軍団を率いて入れませんでした。国境に入る前に軍を解散し、その上凱旋式挙行の日まで、ローマの城壁の内側に入ることも禁じられていました。

軍と共にローマに戻ったカエサルに、暗殺を計画していた元老院派は驚いてローマから逃げ出します。ポンペイウスはギリシャからエジプト、アレキサンドリアへ逃げ、アレキサンドリア上陸直前にエジプトのプトレマイオス３世に暗殺されました。

カエサルは終身独裁官に選ばれます。共和政を廃止して自らの独裁政治を始めました。しかし、長年つづいた共和制の信念と誇りは、根強く、BC４４年３月１５日カエサルは元老院派によってポンペイウス像の足下で暗殺されました。

カエサル暗殺による国家の混乱を収拾したのは、カエサルが遺言で養子としたオクタウィアヌスとカエサルの部下アントニウスそして武将のレピドゥスの３人でした。カエサル暗殺の翌年BC４３年、第２回三頭政治が行われます。アントニウスは東方をオクタウィアヌスはイタリアと西方をレピドゥスはアフリカを支配する事になりました。

クレオパトラの死

しかしアントニウスはクレオパトラと恋に落ち、妻のオクタウィア（オクタウィアヌスの姉）と離婚しクレオパトラと結婚します。それによってオクタヴィアヌスとアントニウスの確執はますます深まっていきます。

アントニウスはクレオパトラに贈り物として、エジプトとシリアの一部を与えます。怒ったローマはオクタウィアヌスをアントニウスとギリシャで会戦させます。アントニウスはクレオパトラと共に逃走します。ＢＣ３０年、カエサル暗殺から１４年後、オクタウィアヌスはエジプトに攻め込みます。すべてを失ったとアントニウスは自殺し、クレオパトラも毒蛇に自分を咬ませ自害をします。
エジプト、３００年続いたプトレマイオス王朝は滅亡しました。

共和政の終わり

ＢＣ２９年オクタウィアヌスはローマに帰国し、１００年に及ぶ内乱の時代は終わりました。オクタウィアヌスは初代皇帝アウグストゥスとなって、共和政から帝政へと時代は移っていきます。